全国の知事で構成される全国知事会が政府に対し、新しい在留資格「特定技能」に旅行業を加えるように求めた。旅行業とは、簡単に言えば、パッケージツアーの販売、手配、旅程の作成、添乗員の手配等を行うものである。
前提知識から解説すると、外国人が中長期的に(例:3ヶ月以上)日本に滞在する場合、在留資格が必要である。在留資格とはビザとは異なる。ビザは、外国にある日本の大使館・領事館が、渡航者の日本への入国を推薦するために発給するものである。
在留資格には30以上の類型があるが、そのうち1つが「特定技能」である。特定技能とは、相当程度の知識又は経験を必要とする技能(特定技能1号)又は熟練した技能(特定技能2号)をいう。
政府の発表によれば、現在、深刻な人手不足が生じている。この問題は、特定の分野において目立っている。そこで、特定の分野の特定技能を有する外国人に在留資格を与えて働いてもらうというわけだ。現在特定技能に含まれるものは、介護、ビルクリーニング、建設、宿泊等の14分野である。
話を元に戻すと、全国知事会は、旅行業を特定技能に加えるように求めている。つまり、外国人が旅行業に就労することを促進しようとしている。訪日外国人の数が3000万人(2018年)超えた今、旅行業は訪日外国人への対応を迫られており、人手不足に拍車をかけている。以下では、外国人が旅行業に就労する必要性について、賛否両方の立場から検討したい。
まず、賛成の立場を考えると、訪日外国人が日本国内でオプショナルツアー等の手配を行う場合が想定される。この場合は、英語を話せない日本人が対応するよりも、英語を話せる外国人が対応した方がスムーズだし多くの観光情報を伝えることができるだろう。そのような技能は特定技能と言えそうである。訪日外国人の満足度を向上させて、また日本に来たいと思ってもらうことができるだろう。
賛成の立場をもう1つ考えると、訪日外国人の数は毎年数百万人規模で増えている。一方で少子化により日本の労働人口は減っているため、このままでは現場がパンクするおそれがある。
次に、反対の立場を考えると、旅行業に就いている日本人のスキルアップの機会が奪われてしまうことが考えられる。初めは訪日外国人に対してうまく外国語を話せずに苦労することが多いと思うが、対応の機会が増えればスキルアップが見込めるだろう。全員とは言わないまでも、自身で外国語の学習をする者も現れるはずである。そうすれば、優秀な日本人が教育され、長期的には産業が活性化するのではないだろうか。そのような機会が奪われてしまうのはもったいない。
反対の立場をもう1つ考えると、IT技術の発達が妨げられるおそれがある。少ない人数で作業を回していると、疲れきった現場を救うために、IT技術が導入されることがある。例えば音声通訳ツールやVRが利用できるだろう。
以上、賛否両方の立場を検討したが、あなたはどちらだろうか。人手不足を解消する方法として、外国人を受け入れることは短期的には良いことだろう。しかし長期的に、日本人のスキルアップやIT技術の発展を考えたとき、受け入れはいいことだろうか。特定技能が必要とされる仕事を外国人に任せることにすれば、日本人には単純労働ばかりが残る結末にならないだろうか。
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