近年、働き方改革の推進が国を挙げての課題となっている。なぜなら、日本の一部の業界では長時間労働と過重労働とが蔓延しており、人材確保が困難だからだ。
旅行業界も同じ状況に直面している。そこで日本旅行業協会は、「普及啓発」を目的として、各社の改革事例を表彰する制度を設けた。応募件数は18件と少ないものの、継続することで業界全体に普及することが期待できる。働き方・休み方改革部門とダイバーシティ推進部門との2つの部門に分けて表彰が行われているが、以下では、前者のうちいくつかを紹介する。
○大賞
審査の結果、働き方・休み方改革部門で大賞を受賞したのはジャルパックである。ジャルパックは、ワーケーション(時間と場所にとらわれない働き方改革の実現)を目指した。ワーケーションとは、旅行先で、休暇を兼ねたリモートワークを可能にすることである。つまり、プライベートの旅行中であってもリモートワークができて出勤扱いされるので、長期の旅行を行いやすいというメリットがある。
ジャルパックでのワーケーションは出張時のテレワーク等、様々な制度と複合的に利用できる。このため、テレワーク実施人数・回数は前年比300%を超えた。更に、2018年7月~8月にかけて行われた社内利用実験では、満足度が98%という良い結果が出た。社員に重宝されていることが見て取れる。このため、11月からは本格的に導入されている。
○奨励賞
奨励賞を受賞したのは阪急交通社である。阪急交通社が行ったことの1つ目は、夏季・冬季休暇の連続取得の奨励である。具体的には、定められた期間内にそれぞれ3日以上の休暇を連続で取得する必要がある。こうすることで、疲れをしっかり取り、心身ともにリフレッシュすることが可能になる。2つ目は、勤務間インターバル制度である。これは、ヨーロッパでは導入が進んでいる制度である。日本では2019年4月に改正労働時間設定改善法が施行され、導入が努力義務化された。具体的には、勤務終了から次の勤務の開始まで、10時間以上の休息を取らなくてはならない。例えば夜の10時まで勤務した場合は、その10時間後である翌日の8時までは勤務ができないということである。これにより、十分な睡眠時間を確保することが可能になる。
以上、2つの賞を紹介した。各社が従業員の満足度向上のために取り組みを行っていることが分かる。賞に対する応募件数は18件と少ないため、取り組みを行っていない会社の方が圧倒的に多いと思われる。しかし人手不足の現状では、各社は、良好な就業環境を提供しないと優秀な人材を確保できない。このため、働き方改革が進む可能性は高いと考える。
しかし、制度の悪用は避けなければならない。例えば上記のワーケーションによって、休暇中の従業員による就業が可能になるものの、休暇中にずっとパソコン作業をしなければならないならそれは休暇とは言えないだろう。同僚や上司による配慮が必要であろう。
また、上記の夏季・冬季休暇の連続取得についても、休暇を取るために前日に長時間の残業が必要なら、満足度は高いとは言えないだろう。本人、上司そして経営陣が一緒になって、業務量を削減できるような改革を行う必要もあろう。
以上の議論は、旅行業界だけに当てはまる話ではない。上記のような模範的な取り組みを通じて、日本の労働環境全体が改善されていくことを願う。
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